チェロ奏者と鯛焼き君

   チェロ奏者と鯛焼き君
 俺は、御徒町の大型の楽器店で働いている。   音楽知識も有り,どんな楽器でも大体は弾きこなせる。元々俺の専門はチェロ、暇を持て余す時や客の試し弾きの時等、有名な曲のアタマやサビ部分を演奏したりして、たまにアンコールに答え(アホか、自分)、素人客相手に自慢げに披露してみせている。   俺はこう見えても、プロを目指した事もあるし、一応音大卒。色々あり、途中挫折した。じゃ何故❓楽器屋で働いてるか?、そう,それは悩ましい…!他にやりたい事も無く、音大卒業まで多額の金を工面してもらった親の手前と言うか、何人にもなれなかった後ろめたさが、今も音楽に付かず離れず携わり、何より自分への贖罪としているのかもしれない。   時々俺は,楽器に使用するボアクリームや油の匂いのせいなのか,急に色々な過去の場面を思い出し、息苦しさを感じ、店から逃げ出したくなる。   今日も又、急に自然に触れたくなり,上野の公園を目指す。いつもは遅い昼休憩を取っているが,今日は,一番先に時間を取った為,腹は空かない。帰る時にコンビニにでも寄ろうと思う。   暫く歩き駅を通り抜けると,直ぐ目の前に有名な〈 鯛焼き 〉の店が現れた。  餡子が尻尾まで入っているという割と有名で、今も人が並んでいる。俺は急に心も腹も少しばかり、ホッコリしたくなり、コンビニに寄らず、鯛焼きを食すことにした。お茶を駅の出口で買い、ホカホカ鯛焼きを(一つとは言いにくい)二つ買い、青空の元、(鯛焼きタイムと〜シャレ〜こもうや)と、人のいないベンチを探す。   
マイノリティハート
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視力回復の為、ご心配をお掛けしてます。早く皆様の作品を自由に読める様に治します。皆様もブルーライトにはお気をつけ下さいますよう🙇‍♀️