microscopic fireworks
デュモルチェライトの華火を見たことがあるか。
それはクォーツの尖角に沿って、放射線状に青い花を開き、得も言われぬ音を立てて瞬くのだった。
僕がそれを初めて見たのは、まほちゃんの部屋の中だった。
まほちゃんの本当の名前は新條瑠璃美という。“まほちゃん”というのは僕が勝手につけたあだ名だ。魔法使いみたいだから。“まほ”うつかいの“まほ”という訳。
彼女の家はマカロン屋さんで、僕の通っていたスイミングスクールの送迎バスがその近くの信号で止まると、その店舗兼住宅の様子がよく見えた。そのメルヘンな店の窓から溢れる光は暖かそうで、いつも女性客が楽しそうにマカロンを選んでいた。そしてその二階の丸窓には、何やら熱心に分厚い本を読んでいるまほちゃんの姿があった。
彼女は僕よりふたつ歳上だった。ゆえに学校で接点があるわけではなかったが、たまに帰り道で遭遇することがあった。彼女は鼻歌でも歌うような足取りで、栗色のツインテールと菫色のランドセルを揺らしていた。
ある時、帰途についていた僕は、遠く先を行く彼女の姿を認めた。彼女はいつものように颯爽と歩いてはおらず、絶えず道の脇にある枝葉を引っ張ったり、はたまた屈んで落ちているものを拾ったりしては、しきりに手に持った何かを覗き込んでいた。彼女が一向に進まないため、僕は彼女に追いついてしまった。僕は彼女のすぐ傍で立ち止まった。彼女は僕の視線に気づくと、顔を上げた。初めてその栗色の瞳と目が合った。
「覗いてみたい?」
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2022/5/15 13:44
絵空こそら
よろしくお願いします。