感傷への決別

 そよ風で緩やかに靡くその美しい亜麻色の長い髪を美しいと思ってから、ただの一度もあなたのことを忘れたことはない。  幼い頃、親と衝突して家出をしたことがあった。近くの河川敷で何をするでもなくただ流れてゆく雲を眺めていた。そうすることで自分が大人であることを証明できるような気がしていた。  何となく雲を眺めていたら、涙が止まらなくなった。自分の幼稚さとか愚かさとか孤独な悲しみとか色々あったと思うけれど、明確な理由は分からなかった。それでも涙は止まらなかった。  その時声をかけてくれたのがあなただった。 「お隣いいかしら」  河川敷の相席を頼むなど不可解極まりないが、涙に触れないでいてくれることは助かった。涙が止まらず、答えることができずともあなたはじっと待っていてくれた。 「私も、泣きにきたんだ」  ようやく泣き止んだのを確かめたあなたは、横に座って呟いた。話しかけたのではなく呟いた。 「もう、本当に嫌なことばっかりで。ううん、違う。本当はおっきな嫌なことに支配されて全部が嫌になっちゃってるの。いや、それも違うかな。とにかく嫌なことのせいで私の人生が嫌になっちゃってるの。だから泣きにきたんだ」  決してこちらを向くことはなく、空を見上げながら頬を伝った涙の粒はどれほど美しかったことか。苦しい思いを捨て去るための、前向きな涙は太陽の光を浴び、眩いほど輝いていた。
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色々書いています。