春爛漫

春爛漫
春爛漫を見逃して今年の一番舞台の春に会えなかった。 気づけば燦々と太陽が唸っていて、僕はそれに当てられて耳を塞ぐような夏。 「聞こえたくないことばっか聞こえてきて耳が腐りそうだよ」 美術室に僕と二人きり。真っ白な絵の具で描いた入道雲が夏の主張をしてくる。あまりの猛暑に皮膚がジリジリと泣き喚く。蝉すら婚活なんてできずに、生殖よりも生命維持が働きかけている。だからかやけに静かな昼下がり。 君が腰掛ける出窓に下がる風鈴は柄無しだ。この一角は校舎の影が触れていて、涼しげに野良猫が腹を出して眠っている。その腹をふわりと撫でるその細い手は、泣きたくなるほどに優しいことを知っている。 冷房の効かない美術室の茹だるような暑さ。 ぽそり話しかけてくる君の横顔。頬に汗が伝って涙のように見えたのか、そうじゃなくてもっとも別の意味でなのか、自分の感覚を分析する気にもなれない。ただただ、泣いてないのに泣いてるみたいだ。 でも君はもしかしたらいつも、出会った時から、そうだったかもしれない。
何者
好きなことだけ