春爛漫
春爛漫を見逃して今年の一番舞台の春に会えなかった。
気づけば燦々と太陽が唸っていて、僕はそれに当てられて耳を塞ぐような夏。
「聞こえたくないことばっか聞こえてきて耳が腐りそうだよ」
美術室に僕と二人きり。真っ白な絵の具で描いた入道雲が夏の主張をしてくる。あまりの猛暑に皮膚がジリジリと泣き喚く。蝉すら婚活なんてできずに、生殖よりも生命維持が働きかけている。だからかやけに静かな昼下がり。
君が腰掛ける出窓に下がる風鈴は柄無しだ。この一角は校舎の影が触れていて、涼しげに野良猫が腹を出して眠っている。その腹をふわりと撫でるその細い手は、泣きたくなるほどに優しいことを知っている。
冷房の効かない美術室の茹だるような暑さ。
ぽそり話しかけてくる君の横顔。頬に汗が伝って涙のように見えたのか、そうじゃなくてもっとも別の意味でなのか、自分の感覚を分析する気にもなれない。ただただ、泣いてないのに泣いてるみたいだ。
でも君はもしかしたらいつも、出会った時から、そうだったかもしれない。
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2025/3/29 6:47
最終編集日時: 2025/6/3 1:18
何者
好きなことだけ