過ぎたさざ波
秋の香りに包まれたその空間は、優しく、包み込んでくれるようである。その道は細く、くねりのある田舎道といえる。僕は、左右に生えた稲穂の揺れを見ながら歩いていた。空を見上げると、ビル一つない景色が広がっていた。
「どうしてこうなってしまったんだろう。」
ぽつりと呟いた言葉は、この世界には僕だけしかいないのではないかと思わせた。その寂しさに押しつぶされないよう、一歩、また一歩と進むも、結局は行くあてもない。それから、数十分と長く細い道を1人で歩いた。しかし、ついには足に迷いを持ったのか、僕はふいに後ろを振り返った。そのとき、左の方から雲に隠れた光が徐々に姿を見せていった。それは、差し込むにしては柔らかく、明るさにしては暖かかった。僕は目を瞑り、それを一心に受け止めた。目から感じる、ほんのりとした熱は、僕の心を解いていった。もう帰ろう。そう思い、振り返った方向へと、歩き出した。波打つ海の音がざぁざぁと、鳴り響く。
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2023/10/19 1:07
最終編集日時: 2023/10/19 5:30
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