忘れられない街
まだこの町が好きになれない。
大きな声で誰かと話しながら歩いている、無敵そうな短いスカートの女子高生。小さな手を繋いで、ネギがはみ出ている買い物袋を持って歩くお母さん。肩を丸めて俯きながら、待つ人のいる家路につくサラリーマン。商店街の店先で、永遠に続くかのような他愛のない会話に花を咲かせているおばちゃん達。慣性の法則をギリギリ保っている、クソ遅く漕ぐ自転車のおじいちゃん。
夕暮れ時の帰り道は、いつもナニカに責められている気持ちになる。そのナニカの正体も、本当はよく分かっている。それは、私が選ばなかった、そして私を選んでくれなかった「真っ当な幸せ」の気配だ。肉屋から漂う、夕食のおかずを告げるコロッケのにおい。夜と夕方の間の、すべてを曖昧に溶かしていく空の色。店頭に並ぶ、一人暮らしの食卓を惨めにする半額シールが貼られたお弁当。六時の、容赦なく今日という一日を終わらせるサイレン。
見るもの、耳に入るもの全てに心がざわざわして、居心地わるく感じてしまう。一刻も早くこの幸福な喧騒を通り過ぎようと思うのに、鉛のように足取りは重い。買うものなんて何一つないのに、誰かの体温がある場所に逃げ込みたくて、どこかのお店に入ろうかという謎の思いが交差する。自分より歳下に見えるお母さん。当然のように守るべき家庭を持っているだろう背広の中年。どうして皆、当たり前のように、陽の当たる場所で人間の営みをしているのだろう。もうすぐ三十歳になろうという私は、どうしてこうも、何一つ手に入れていないのだろう。誰の特別にもなれないまま、ただ歳だけを重ねてしまった。
学校で教えてほしかった。相槌の正しいタイミングと方法。相手を不快にしない会話の仕方。年金の仕組みと税の種類。好印象を与えるメイクの方法。無駄なく食材を調理できるレシピ。引越しの前後の挨拶……。そして、今、一番知りたいこと。終わった恋愛を、思い出さずに生きていく方法。小骨が刺さっているように今でもずっと痛み続けるこの胸は、思い出しては苦しみを求める。あの時一緒に聴いていた音楽が流れていた時、あの人の柔軟剤と同じ匂いを嗅いだ時、ふとした瞬間によみがえる。連絡先もブロックしたのにスマホを肌身離さずポケットに突っ込み、家の鍵を開ける。まだ見慣れないワンルームの小さなアパートは、どこかじめっとしていて、でも、誰の目も気にしなくていいこの暗闇と静寂だけが、今の私にはなぜか一番落ち着いた。
なのに今でも思い出すのは、あの街の、あの部屋の、あの人なのだ。
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2026/9/20 14:45
はるきち
いいねやコメント失礼しますm(_ _)m
心身健康な時だと出来るのですが、最近読める時と読めない時の差が激しくて…_(:3 」∠)_
こんなやつですが、よろしくお願いいたします