#15
茂みを掻き分け闇の濃くなる森を進む。
この森は帝国と共和国国境の付近の帝国側に位置し、名をグレイ大森林という。大森林の名に恥じぬ巨大さでその広さは帝都が丸々三つほど入るほどだ。奥へ進めば進むほどそこは人智の及ばぬ秘境が広がっている。アルトが滞在していたサライズ村はその外縁に位置する大森林に近い村だった。おおかた魔獣や獣の群れに淘汰されたのだろう。
数分ほど歩くと水場へと出た。湖というには小さく池というには大きい場所だ。昼間にはこのような水場には多くの獣が集まるが、夜の暗闇を嫌うのは人と同じらしい。時折吹く風が木々の葉擦れの音を届けるだけだった。
アルトはマジックポーチから水筒を出し、あるだけ水を汲んでその水場を後にした。
「ん…。」
明けの宵星が目を開けると目に入った。森の木々の上に覗く空は淡い赤に染まっている。やがて太陽が顔をのぞかせるだろう。
寝床にしていた廃墟から起き上がり、アルトはこれから進む先を眺めた。見渡す限り木どころか雑草の緑すら見えない荒れた大地が広がっている。食料調達に3日を要したのはこのためだった。
共和国と帝国の国境、その共和国側にはこちらも大森林ほどに広大な、荒野が広がる。その荒野の名前を共和国に足を踏み入れたことのないアルトはまだ知らない。
マジックポーチに寝袋をしまい寝床の跡を消す。焚き火はしていないからこれだけで追跡は困難になるはずだ。
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カテゴリー: ファンタジー
投稿日時: 2025/8/30 17:15
最終編集日時: 2025/9/3 23:03
Zeruel
趣味の範囲で書きます。
また、才能があるわけではないので、馬鹿にされると言い返せなくて泣きます。
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