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アーケード出口の横断歩道を渡り、二人は人足の減った国道沿いの大通りを右方向に曲がり、一本目の路地に入った。路地と言っても、ちょっとした服屋や雑貨店の連なる横丁と呼べる様なそれなりに広い通りだった。ミレイとユウヤはその中でなんとなく見ず知らずの昼食場を探すことにした。
ユウヤがミレイの後をつけて行くと、手前から二人組の、ユウヤ達と同い歳位の女の子が歩いてくるのが見えた。近づく度に、会話が聞こえてくる。えー、飼うんだったらマングースの方が絶対いいでしょ、可愛いしさー、アナコンダなんてちっとも可愛くないじゃん。そんなことを口にしながら、一人の方がユウヤのすぐそばを通り過ぎた。飼いたいペットの話でもしているのだろうか、だとすれば、それにしてはやや凶暴な名前が挙列されてるなあ、とユウヤは彼女達の顔を見て思った。そして一人の長い髪の毛がユウヤの首筋に触れて、不意に香水の匂いが鼻元に漂った。カルトゥージアの甘い紅茶のような香りが掠めた。
「ねえ、ミレイは、香水とかはつけないの?」
「何、急に」
ミレイが不思議そうに聞き返す。ユウヤは、いやなんとなく、女の子は皆んな香水とか好きなんじゃないのかなと思って、ユウヤが何気なく言うと、私、付けたことないんだよね香水、とミレイが言う。なんで?とユウヤは彼女の顔を見やる。
「だって、なんかそれってカッコつけてるみたいじゃん?」
二人が目にしたのは、長い花壇の並列する道を区切るように、緑生い茂るパーテーションに囲まれて建っている煉瓦造りのパスタ専門店だった。ミレイが、ねえ、こことかどう?と店を指さして、ユウヤがいいんじゃない、入ろうよと賛同する。じゃ決まりね、とミレイが入店する。私、パスタ好きなんだよね、と空腹に舌舐めずりするような顔でユウヤの方を向いた。
いらっしゃいませ、という店員の声が響き、ユウヤとミレイはこちらへどうぞ、とテーブル席へと案内される。こちらメニューです。お決まりになりましたらお呼びください。若い男の店員がそう言ってメニュー表を二人の目の前に置いて去って行った。ユウヤは何にするの?どうしようかな、暫し悩んで、すみませんと店員を呼ぶ。はーい、という声と共にやってきた店員に、ユウヤはペスカトーレのスパゲティとアラビアータのペンネスープ、ミレイはジェノベーゼのカッペリーニとミネストローネをそれぞれ注文した。少々お待ちください、と店員が再び去った後、二人は空腹を他所にさっき歩き巡った店々について話した。どれも全部、全然個性の違う人がいて、なんか不思議だったよね。うん、面白かったね。そうね、本当に。
店内は、やはり昼時なのでかなりの人影があり、賑わっていた。客達の座喚き声や笑い話が店中に充満している。イタリアンレストランだというのに、店内のBGMには何故かトムキャットの、ふられ気分でROCK'N'ROLLが流されていた。ミレイは買い物袋達を手から足下へと下ろし、中身を確かめる。今日も色々買ったなあ、ユウヤの選んだ、スージークアトロの服を眺める。ユウヤ、見つけてくれてありがと。ミレイこそ、レコード譲ってくれたじゃん。だから私持ってるんだって、それ。ミレイが可笑そうに言う。それにしても、疲れたね。うん、もうお腹ぺっこぺこ、早く来ないかなあ。ミレイが壁紙を見回しながら、子どものように足をばたつかせている。ユウヤは水を一口飲んだ。十五分ほどで、二人の注文品が届く。お待たせしました、と店員はパスタ皿をテーブルの上へと置き、ごゆっくりどうぞ、と急足で去って行った。美味しそう、いただきます。ユウヤとミレイがそれぞれの料理を口に運ぶ。美味しい、ミレイがミネストローネを一口啜る。ユウヤはペスカトーレをもう一口頬張る。海鮮や唐辛子やトマトの酸味、そしてバジル仕立てのソースの匂いが卓上の上で混ざり絡み合い、二人の鼻腔や喉道を通り抜け、食欲を増進させた。
一通り食べ進めたところで、ユウヤがそういえば、とスープを飲み込んでミレイに尋ねた。
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2025/9/18 18:03
最終編集日時: 2025/9/21 15:52
アベノケイスケ
小説はジャンル問わず好きです。趣味は雑多系の猫好きリリッカー(=・ω・`)