春に死せる君と、冬の皇子の僕

春に死せる君と、冬の皇子の僕
「大丈夫よ、きっとまた会えるわ。春はすぐそこに来ているのだから、ね?」 俯いた青年へ向かって、白く細い指がそうっと持ち上げられて、優しげな感触をもたらしていった。幾分か痩せ細ってしまった割には暖かく、切なげな病床の匂いを宿していた。床から伸びたその腕は、たちまち抱擁するような動きを一瞬描き、不意にやめた。 頭を抱いて貰えるのだろうか、と待ち受けた青年は、その頭部はいつまで経っても抱きしめられることはなく、大いに落胆した。つい、と少女の指は艶やかな黒髪に覆われた頭を逸れ、もう映される筈のない瞳に、最後の輝きが讃えられる。 ほとほとと積りに積もった雪が、冬の日の静かな煌めきによって、しとしと溶けゆく音。 長い間氷という膜に覆われていた地面が姿を表し、地上はうまれたての班目模様になろうとしていた。 長い長い冬が終焉を迎え、誰もが待ち望み焦がれた暖かな春…まるで本国の妃のように淑やかで軽やかな季節がやってくる。四角く切り取られた窓がひとつ、冬の日の新鮮な煌めきを取り込んでいたが、少女の周りにあるのはそれのみだった。 指が青年の頭部をすり抜け、窓の光に透かされ、少女は外の景色をゆっくり貪るように見つめた。 はた、と視線が定まったかと思えば、はらはらと温かい水滴が頬を伝っていく。 まるでこの国で過ごした全ての時間を懐かしみ、浄化し、次の世界へ持ち去ろうとしているようだった。 「ねえ、私幸せだったわ」
赤ずきんちゃん
赤ずきんちゃん
こんにちは!Webには初投稿となります、赤ずきんちゃんです。 高校三年生になりました!性別は女です。 たま〜に更新するかもなので、良かったら覗いてやってください。 皆様の作品はどれも面白いものばかりで、これから沢山拝読できるのが楽しみです。 仲良くしてください! よろしくお願いします! 良かったらフォローして気軽にコメントください♪