第五章
「それで、お前の名前はなんていうんだ?」
ハルキは、少女の目の前に差し出したメモ用紙と彼女の表情を見比べて尋ねる。少女は質問を受け取ると、手に取ったボールペンでゆっくりと奇しくもその身体に似つかわしいか細げな文体で、ルカ、と用紙に記入した。
「ルカ、か……」
その少女の記した名前の文字列をしばらく眺めてから、ハルキは小さく呟いた。そして、とてもいい名前だな、と彼は思った。
ハルキは今しがたにその暖炉に焚べるための薪を割る作業を終えたばかりのところで、家の中に戻ると、すぐさまに少女のもとへ向かい、椅子に腰掛けると、なあ、と質問をした。ハルキは少女に名前を尋ねたのだけど、少女はただ困惑するばかりに首を傾げたり、うろうろと何かを探すように周りを落ち着かなく見回したりするに留まり、やはり何か返事を返すような素振りは見せなかった。ハルキはそんな彼女の仕草をしばらく見つめてから、もしかしたら、と思った。もしかしたら、彼女は言葉を話すことができないのかもしれない、とハルキはほとんど確信に近い思いを浮かべた。何故なら、その少女の狼狽えかたは、口下手な人がどうやって返事を返すべきか迷っているという様子ではなく、声自体の発し方がわからない人間が、どんな手段で答えを渡そうと思案しているものの動きに見えてからだった。ハルキはそして、彼女と朝食を共にした時に感じ得ていた違和感の正体を、ようやく理解することができたような気分になった。
ハルキはちょっと待ってな、と言い残すと何か書けるものをとメモ用紙とボールペンを持ってきて、少女に手渡した。これに返事の言葉とか、言いたいことがあったら書いてくれればいいから、とハルキは告げて、再び少女に質問を繰り返した。
「年齢(とし)は幾つなんだ?」
すると、ルカ、という名前のその少女は次に、自分の名前の横に、十九歳、と数字で記入した。
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2026/4/10 12:48
最終編集日時: 2026/4/10 15:24
注意: この小説には性的または暴力的な表現が含まれています
阿部野ケイスケ
小説はジャンル問わず好きです。趣味は雑多系の猫好きリリッカー(=・ω・`)