傘
梅雨時 母親が買ってきてくれた傘を手にのんびり歩く。平日になんて呑気なんだろう。時間は九時三十八分。すれ違う人からの視線を感じる。憧れの制服を着ることは嬉しいが、片道一時間もかかる学校に行くのは思っていたよりも過酷だ。バスを待っているとふと気づく。傘に桜模様が浮き出ているではないか。どれほど心が濁っていても見惚れてしまうほど美しい。周りに桜が散っている様な幻想に陥る。桃色に群青色を混ぜた紫に近い色合いの傘。くすんだように思えるがハッキリしている。桜のための色と言っても納得できる。この傘を開発したのは誰だろう。その人はきっと天才だ。そんな風に考えているとバスの扉が開く。急いで傘を閉じ乗車する。同時に濁った心に切り替わる。窓の外は雨、どんよりとした車内。とても空気が重い。家庭環境が上手くいかず心が蝕まれた私には心まで重く感じる。何もかもどうでも良い。私に未来など訪れない。生まれつき心臓に疾患がある。軽度だったが、半年前の検査で腫瘍が見つかり悪化したことが判明。腫瘍は悪性で余命宣告までされた。学校に到着するともう一人の“私”になる。 明るくおてんばな女子高生。異性、同性どちらからも人気で高嶺の花と言われる存在。お昼休憩の時間、友達に 「体調悪い?なんか顔やつれてない?」 と言われたので、内心焦りながら 「最近メイク変えたからかなぁ」 と苦笑する。クマや顔色は完璧に隠したつもりでいた。 きっと雨のせいだ。 学校が終わると今よりずっと色味の強い化粧品を購入し帰宅。疲れが一気に来るため眠りにつく。夢を見た。傘を持った少女が空を飛ぶ夢。目が覚めても鮮明に覚えていた。ハッと閃く。私も飛べばいいんだ。わざわざ死を待つことは無い。計画を立て始める。 どんなものを用意して、いつ実行するか。というものだが、傘さえあればいつでも実行出来る。
宇宙のひとかけら
高校2年 ゆずごめんね。世界で一番愛してる。