「綻び」 ー2ー
体育館では規則正しく、少し錆付いたパイプ椅子が並べられている。拳一つ分ほどあけて置かれた椅子に、全校生徒が座っていく。私は無意識に、心身を硬直させていた。十数分の入学式が終わり、十分間の休み時間が設けられた。席について、やり過ごすつもりだった。誰とも、話したくなかった。……また、傷付けてしまうから。そのはずだったのに。
「なあ。香具山…さん?ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
背後からかけられた明るい声音に、心を乱してしまった。私の中にある、なにかが、彼を拒絶する。……だめっ……無意識のうちに固く目を瞑る。1…2…3秒経っても、なんの反応もない。恐る恐る目を開けても、教室の喧騒は先程までとなんら変わっていない。眼前には、少し困ったように眉を傾けた神代家嫡男の顔。感情を抑え、できるだけ無機質に。
「……なに?」
無愛想な私の返事にも、子犬のように表情を綻ばせる彼。しかし僅かに視線をずらすと苦虫を噛み潰したような顔になる。
「人前ではちょっと…話しにくいかな」
彼の視線の先を辿ると、良家の嫡男が私に話しかけている事に対し、想像を巡らせているクラスメイトたち。その中の一人と目が合うと、サッと顔を背けられる。
「放課後は、時間ある?」
今度は小声で、囁くように声を掛けてくる彼。微かに頷いた私の動きを、見逃すほどの温室育ちではなかったようだ。
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カテゴリー: ファンタジー
投稿日時: 2026/2/21 16:36
あい
色んなジャンルに挑戦したいです!温かい目で見守って下さい…。