あみだくじ ③

あみだくじ ③
 朝食を食べながら見ていたニュースに、昨夜の殺人事件のことが流れてきた。犯人は21歳の大学生で、殺されたのはその親だったらしい。  親を殺した大学生は、私と同じく勿論あみだくじの上を歩いていた。ニュースでその様な報道がされていた訳ではないが、私には大学生があみだくじの上を歩いていたとハッキリと分かった。  「失うモノなんて何もない。どうなってもいいと思った。死んで欲しかったから殺した。」  これが犯人の供述だったらしい。 昨日という日を迎えるまでに、犯人は21歳もの時を経ている。人間は失うモノがなくなった時に突拍子のない行動がとれる様になる事はいい意味でも悪い意味でもありがちな話だ。しかし、この話ってよく考えたら意味が分からない。人間誰しも産まれた瞬間はスッポンポンで失うモノなんて元から持っている訳がないのに、ふと気がつくと「大人になって失うモノがなくなった」とか「自分には何も無い」とか言うようになっている。食べ物を与えられて、寝床も与えられて、全てを思い出す事のできない程の時間を与えられて、その結末が「何も無い」という贅沢を殆んどの人間は不幸だと思うらしい。あみだくじの上を歩いていると目の前に選択肢が現れた場合、その場所でどちらに進むか悩んでいたとしても進んでいく未来は元々決められた方向しかないのである。  話が変わるがそういえばこのニュースキャスター、何処かで見覚えがあるような気がする。先週から新たに朝のニュースコーナーを担当しているらしいけれど、自分とは異なる世界線を生きているはずなのに一体どこで見かけたんだろうか。思い出せそうで思い出せないむず痒さを覚えた朝が今日という1日をいつも以上に刺激的にしていくのであった。
ちゅうちゅう
ちゅうちゅう
社会で働く中で自分の中に生まれた「言葉」という老廃物をインターネットの世界へ垂れ流していく人。 田舎で社会人してる20代男性です。Twitterもよろしくお願いします!2022、10、31スタート。