桜
きみと夜桜を見に行きました。あれは1年前、きみが突然「写真を撮りにいきたい」と言ったから。
きみはそのフォルムに見合わないクソ高い一眼レフを持っていました。それで撮るモデルは大抵わたしでした。たまに知り合いから頼まれて撮るとき、きみはいつも「ちゃんと撮らなきゃ」と焦っていました。わたしを撮る時はいつも「もうちょっとシュッとした顔してよ」なんてひどく曖昧な指示をするくらいなのに。そのカメラを使って撮る時、わたしは大抵傍にいました。きみが映すそのカメラは、わたしが買ってあげたものでした。
きみと夜桜を見に行きました。あれは1年前、雨上がりの透き通った夜空に凛と舞う桜吹雪。わたしは目を奪われました。
数種類の桜がその公園には植えてありました。中でもきみのお気に入りは八重桜でした。大きなその根に集った人間たちを、樹齢数百年の桜はどのように見ているのでしょう。それを言うときみは「馬鹿だな、桜を綺麗と思う人間はみんな綺麗に決まってる」と、また無言のままフィルター越しに桜を見上げてシャッターを切るのでした。
あれから1年が経ちました。わたしの隣にいるのは、きみではありませんでした。わたしを捨てたきみが、「あいつから捨てられたんだ」と言っていることは知っていました。
きっとお互いがお互いを捨てたのです。もうじゅうぶんすぎるほどの恋でした。終わりの頃はもう恋ですらなかったのかも知れません。
あれから1年が経ちました。わたしの隣の彼が買ってくれた梅ヶ枝餅を食べながら、きみと通ったあの道を、隣の彼と通りました。
何故か、涙が溢れて止まりませんでした。隣の彼は驚いたようにわたしを見て、ハンカチを差し出してくれました。きっときみだったらこんなハンカチなんか持ち歩かないんだろうな、そう思うとこんどは笑えてきました。自分が弱くて惨めで可哀想で大嫌いだと思いました。そんな歌詞の歌があったような気がします。
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2025/3/29 10:23
最終編集日時: 2025/3/29 10:59
つばめ
活字中毒 お酒と煙草が好きな成人済。
食えねえ文章ばっか書いてます。
素敵な人だけふぉろすることにしました。おべっか使えないんで。好きなひとにベタベタくっつきます。
オタクじゃないけどオタクみたいな話し方してしまう病。あとこころの病持ち。夜になると黒くなります。気に障ったらごめんね。悪気はないからタチ悪いね。悪いようにはしないんで よろしゅうお願いしやす
Novelee:: 2024.08.22-