『思い出を吸い込む』

『思い出を吸い込む』
     思い出を吸い込む 『止まれ』の路面表示が見えてきた。いつもはここで止まらないと、竹刀を持った体育の先生にしかられるけれど、今日は止まらなくてもいい。あいさつ運動の生徒たちもいない。背の高い木々がゆらゆらと枝葉を鳴らしているのが、いつもより鮮明に聞こえた。  わたしの影がわたしを追い抜かそうとしている。わたしはそれを許さない。  今日は学校が休みだ。だけどわたしは学校に行く。部活もない。補習もない。先生に呼び出されたわけでも、忘れものを取りにきたわけでもない。  来週、この学校は取り壊される。  青空とひび割れたコンクリートに挟まれたクリーム色の四角い校舎は、今日で見納めだ。  学校は数年の工事を経てサッカースタジアムに生まれ変わるらしい。
つぐ
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