愛のために

 どうにも腹が立って、殴ってやりたい気分であった。それは、俺が暴虐な性格をしているからとか、酔っていて理性がないからとか、安っぽいドラマのような復讐のためとか、そんなことでは一切ない。俺はこの胸のうちにいる俺自身を殴ってやりたいのだ。  なぜそんなことを思ったかというと、事は数時間前のことである。冷蔵庫に入っていたプリンを一つ食べたのである。それはそれは美味しいプリンであったが、不味い事が一つあった。そのプリンは俺の妹が大事に大事に取っていたものであるということ。  妹がプリンを楽しみに帰宅したタイミングと俺がプリンを楽しんでいるタイミングが重なったこともまずかった。怒り心頭の妹に俺はなす術がなく、コンビニで新たなプリンを買いに出かけるも同じ種類のものがないために似たようなものを買って誤魔化そうとしたことも問題で、妹は絶賛不機嫌である。 「なぁ、悪かったよ。知らなかったんだ、新しいプリンなら十個でも買ってやるから許してくれよ」  俺は愛する妹に何とか許してもらおうと必死の言い訳をするも響いてはいないようだ。 「もので釣ったってだめだもん。私はあのときあのプリンが食べたかったのに。お兄は自分の何が悪いのか何にも分かってない」  そういって部屋に立て篭もったっきり出てきてくれないのだ。  この家は兄である俺と妹の二人しか暮らしておらず、二人で過ごすのにもやや大きいのだが一人になるとより一層寂しさを際立てる。  最近は掃除もできておらず家全体がほんのわずかに臭う。妹のご機嫌取りのための甘いデザートついでに芳香剤にファブリーズ、その他の消臭グッズも買いに行こうと家を出た。  近くのスーパーで必要な品とその他何となく欲しかったものを手に取った。合わせてコンドームも購入した。妹と買い物する時は気まずくて購入できないが、最近頻度が少し増えた気がする。やはり人間関係のしがらみが減ると依存してしまうのかもしれない。
K
色々書いています。