お題で習作《日常編》  シガレット

「そういえば、鞍馬さんは煙草は吸わないんですね?」  休日の昼下がり。二人で煎餅をぼりぼりとやりながら何をするでもなく見ていた昔の刑事ドラマの再放送。主役の刑事が事件解決の余韻に浸って美味そうに煙草を吸うシーンを見て、彬がぼそりと呟いた。  あまりに急な質問だったため、俺は不意に吸い込んだ煎餅のかすが気管へとダイレクトアタックするのを易々と許してしまった。 「げぇほ、げほ……っ!」  むせて咳き込む俺から煎餅を山盛り盛り付けた菓子皿を守るように引き寄せた彬は、指先を唇にあてて考え込んだ。 「鞍馬さん、そういうの好きそうなのに。大人だけの特権、シブさの象徴、かっこいい! みたいに思ってそうだし……」 「……俺のことバカにしてんのか?……げほっ」  やっと誤嚥から立ち直った俺が彬の手から奪うように菓子皿を取り戻す。その俺の目はひどく据わっていたと思うが、彬は特に気にすることもなく言葉を続けた。 「だって、鞍馬さん下戸でお酒も飲めないし、あと手っ取り早く大人感をマンキツできることっていったら、煙草と選挙と公営ギャンブルぐらいのものじゃないですか」 「だから、なんで俺が大人感に飢えてる設定なんだよ!」
小野セージ
小野セージ
ちなみにセージは男性名ではなくハーブの名前のほうです。修行のためにお題を使った短編を不定期に投稿してみようかなと。登場人物はいつものうちの子です。