海豹
日曜日の午後、わたしの趣味であるレコードを垂れ流しながら、二人で紅茶を飲んだり外を眺めたりしているときだった。
「走馬灯が選べるなら、あなたのことがいいな。死んだあとは二人で静かに海の砂にでもなれたらいい。」
ぽつりと横で呟くものだから少し驚きはしたが、急に何を言うかと耳を疑うわけではなかった。
わたし達が出会ったのは海だった。海で遊ぶことが好きな訳ではなく、『海』そのものが好きだった。話が合うと分かってからは海の色んな話をたくさんした。ときには、夜から朝まで語り明かすこともあった。もちろん海に生きるものたちに憧れを抱くこともあったので、結婚してから現在に至るまでよく水族館にデートに行った。そのため、死んだら海の中でゆっくりと過ごすものになりたいというのは二人の理想だったのだ。それに、わたしは最初にも書いた通り妻を溺愛している自覚がある。だからこの発言も可愛くて仕方が無いし、わたしも走馬灯が選べるならもちろん妻とのことを選ぶ。
わたし達の老後の理想は、二人で海に関する創作物をつくり、たまに人の目につくように細々としながらも物品として販売することだ。この物価高な世の中で年金だけでやっていくのは難しいと考えているため、少しでも小遣い稼ぎになればいいなと思う。この前報道番組で取り上げられていた老夫婦は山のコテージで暮らしていて、山にあるものだけで作品をつくり続けているという取り組みを行っていた。その夫婦は自然を愛しているらしく、それに相応しいような柔らかな表情をしていた。こんな夫婦になりたいと思った。どこかの夕食の時に思い出したかのように伝えてみると、妻は目を少女のように輝かせて、
「とっても素敵ね!」
と興奮していた。可愛らしかった。
話は変わるが、わたし達には子供がいない。正確に言うと、血縁関係を持った子供を持つという判断をしなかった。ただでさえお互いのことで手いっぱいになるのにもうひとり二人と自分の子供を持つとなるととんでもない事になりかねなかったのが目に見えたからだ。そのため養護施設で引き取った子供は三人いたが、どの子も思春期真っ只中で複雑な気持ちを抱えていたであろうに、恩返しをしようとしてくれている。むしろ、わたし達のところに来てくれてこっちが感謝したいところだ。
話は逸れたが、この判断は英断だったのでは無いかと思う。病気などが関係してつくれなかったのではない。“あえて”つくらなかったのだ。
そのおかげといってはなんだが、余裕のない二人だったからこそちゃんとお互いに向き合って上手く付き合ってこれたんだと改めて考える。
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2026/7/13 15:04
はの
塵と海月。
多分恋愛系ばっか書いてる人
開始 2023/09/13