流暢なソルシエール
料理と文學を似ていると語る我らの魔女は、年季の入った大鍋で色の良い根菜と鹿肉を煮ている。
夾竹桃が生い茂るみすぼらしい離れに平然と籠る私の叔母は、今を生きる魔女として名を馳せている。だからと言って何か不思議な力を心得ているわけでは無論なく、彼女をそのような妖女たらしめる物的証拠は、前述の生い茂る夾竹桃のみである。
「柔らかくて弾力がある『つ』は、指で伸ばして、小さく分けて、それから丸めて促音にしちまうんだ。『は』とか『ひ』は、それだけで充分美味いが、深みを出したいなら、オレガノにカルダモン、ペッパーを粗めに砕いてかけてやる。そうやって、濁音とか半濁音にする。あとは合わせるだけ。過度な甘味と酸味は気味が悪い。辛いほどの塩味は人殺し。だから、調和させるんだ。調和」
こちらに視線を寄越して、彼女はにやりと笑う。細めた目は老婆にしては鋭すぎるし、魔女にしては怪しさの欠片もないと思う。
「ごらん」
叔母は、空中に指で文字を描く。
りょうり
「ほうら、調和がとれているじゃないか。主菜は多め。副菜は小鉢に。無駄はなく、シンプルで完璧だ。盛り付けてやろう」
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カテゴリー: ファンタジー
投稿日時: 2025/9/20 0:02
ot
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