楽鯱
白背広を纏い股を開いた鯱は、大麻の葉巻を咥えたまま踏ん反り返って椅子に沈んでいた。青白の煙を吸い込み、肺の端から端までを覆い尽くして鼻から吐く。そして恍惚とした眼を爛々とさせて眼の前の女を見ていた。首後ろにある赤波の二重模様や左腕の烙印、全身にある細長い切り傷も彫刻とは違う男らしさ、美しさを強調している。積み上げられた書類や聖書の上に一つ桜桃《チェリー》を置き、細長い牙を連らせてニィと笑みを浮かべていた。
「翼生やして空飛びたいわぁ」
胸を煙で膨らませて、脚を組む。女は裸体を毛布で隠して眼を細めた。硝子張りの窓の向こうには、相変わらず珊瑚礁が煌めいている。
「は、頭まで腐ったのか」
「海なんてつまらん。俺は死んだら鳥になるんや」
手を広げてパタパタと動かす。そして口を開こうとした女を遮って立ち上がった。
「金をなぁ、アンタみたいな女にばら撒いて去る」
「……それは、ごめん」
眉を顰めて眸を揺らす。鯱は表情を濁らせて、焦る様に動きを止めた。
「ちゃう。全部戦争のせいや。もし戦争なんて無かったら、アンタは身売りせんで済んどった」
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カテゴリー: SF
投稿日時: 2025/8/15 17:22
最終編集日時: 2025/8/15 17:23
注意: この小説には性的または暴力的な表現が含まれています
愛染明王
主にTwitterで行なっている長編創作を書き留めています。表紙は自作ですのでご心配なく!