私の綺麗な殺し方

私の綺麗な殺し方
   今日わたしは、自殺をする。今世とはサヨナラということだ。何で死ぬのかって?この世の中にわたしを必要とする人は、もういないからさ。彼氏には「必死すぎて怖い」って言われたの。母親は、わたしに関心がない。友達だっていないから、もういいかなって思ったの。  私は、まだ日が出ていない時間に目を覚まし準備をする。気温を見ると、マイナス十度。寒すぎる。私はブランケットを羽織りながら、着替えを済ませる。三途の川に行ったら服とか剥ぎ取られるんだっけ。なら、少しでも厚着していこうかな。家中にある服を何重にも着て場所を移動する。灯りもつけない中、私はグチャグチャの部屋の中をどうにかして移動し、キッチンへと行く。コーヒーを淹れて、トーストを焼く。たった一つ余ってた卵で目玉焼きを作り、見窄らしいが最後の朝食が完成した。何となくテレビをつけたが案の定この時間は何も面白いものが入っていない。携帯を開いて地図を確認する。もう使われていないトンネルまで行くのにどれくらい掛かるのかとか、最後の食事なのに我ながらとても物騒なことをしている。  朝食を食べ終えたら、出かける用意をする。今まで使ってきた部屋に感謝の一礼をして玄関にある練炭とバケツコンロ、車用のカーテンとガムテープを持って中古の愛車へ向かうべく外へと足を踏み入れる。外は案の定気温が驚くほど寒くて、頬に風があたる度刺さるように冷気を感じる。アパートの2階から持っているものを落とさないように慎重に物を運ぶ。車のエンジンはもう温まっていて、いつでも出発ができるようになっている。コツコツと階段を降りていく音が耳に残る。まだ、日すら登っていない空を見て、今日は自殺日和だと縁起でもないことをいう。  車に乗りこみ暖房の暖かさが身に染みて涙が出る。この短距離でも、寒さで肌は冷たくなっていてじんわりと暖房の温かさが体に溶けていく。車を発車させてしばらく国道を走る。目的地まで約二時間。人通りの少ないところでひっそりと死ぬには、そこまでの時間を費やさなければならない。音楽をかけて仕舞えば、後ろめたさが残るとおもったから、今日は音楽はかけず無音のまま車を走らせる。  二時間後、漸くというように日が登り始めた頃私は目的地に到着した。山の上ということもあり、ここからの眺めはまさに絶景そのものだった。朝日が眩しくて、目を擦る。擦った手には、水がついていたが構わず取り払った。よし、準備をしよう。バケツの中に練炭を入れる。車の窓には、カーテンをつけてしっかりと中が見られないようにガムテープで強化する。膝掛けをとって外に出てバンパーを塞ぐ。これは、よくわからないけどネットで見たからやってみただけ。寒い寒いって口にしながら、車に戻り練炭に躊躇なく火をつける。ポーチからは、大量の薬を取り出して。パチパチと小さく火花を立てる練炭を見ながら小さくため息を吐く。どうせなら、彼氏と円満でいたかったし家族からの関心も欲しかった。残念残念。今回はご縁がなかったということで締めましょうか。私はプチプチと薬を手に取り出し一気に口の中に入れようとした時だった。 「やっぱり此処だった。」 そう言って車のドアが開いた。ゼエゼエと激しい息切れをしている彼がそこにいた。彼は、私の手を掴んで薬を外へとばら撒く。練炭はすぐに消火して車の中にいる私を外へと連れて行き新しい空気を吸わせる。 「やめろよ、こんなことするなんて」 「重たいって言ったから、必死な私が怖いんでしょ」
田中
田中
心に残る小説を。