『第3回NSS決勝』 月夜のあしあとに

『第3回NSS決勝』 月夜のあしあとに
 積もりたての雪に最初の一歩を置く時、まっさらな白銀の世界に凹みが生まれる。  一歩、二歩、三歩。雪道の上に足を踏み出す毎に、生命の形跡がそこにくっきりと刻印されるのだ。  そうしてぽっかりと空いた穴の中に私は、ある凍てつく満月の夜、不思議なものを見てしまった。  星空の下、庭の柿の木の上で分厚い外套にくるまり、ぼーっとしていると。眼下の雪道に点々と残された足跡の一つに、小さな影が四つ、わらわらと現れ、酒盛を始めたのだ。  笠を被り、縞の着物に綿入れを着た虫けらほどに小さな男達が、敷いた茣蓙の上にだらしなくあぐらを描き、炭が赤々と燃える小さな小さな火鉢を囲んで、賑やかにわぁわぁと騒いでいる。  一人の小男がチンチチン、と火箸で火鉢の縁を叩きだし、一人の小男が唄いながらふらふらと陽気に踊り出した。賑やかな囃し声と共に一歩、二歩、と足を運び、頭をふりふり、手をひらひらと泳がせている。  その奇妙さに目が釘付けになっていると、不意に踊る小男がこちらを見上げ、赤ら顔に明るい笑みを浮かべた。 「やぁいい月夜ですなぁ。旦那もお月見ですかい?」  そして気付くと、彼らはふっ、と消えていたのである。
Tentomushi
Tentomushi
初めまして。Tentomushiと申します。 学生です。よろしく。