帽子を捨てて、こんにちは【1】
アメリカ兵が投げてくれた、二、三かけらのチョコレートを舐め、飢えをしのぐ。子供だった頃は蛙が鳴き、みんなで虫を撮りに行っていた森は、原型のない火の海になっていた。爆風で塵が舞い上がり目に入る。本当に、日本は勝つのだろうか。
僕は実家の青果店を継ぐため、中心地にやってきた。徴兵は持病と低身長のお陰で免れたが、戦争を丸ごと避けることはできなかったらしい。身を守るための道具を着る余裕などなく、僕は逃げる途中、逸れてしまった従兄弟を探していた。逃げ惑う人々に、逆らうように進んでいるため何度も押し返されては転んで踏まれる。
優しい人からは“まずは自分を優先しな”と言われたが、従兄弟はまだ7歳だ。絶対に助かるわけがない。恐怖ですくむ足を何度も叩き逸れた場所に向かったが、そこには辺り一面地獄絵図。瓦礫の下からは、もう息絶えている従兄弟より幼い子供や妊婦、両親よりも年上の人を見つけることさえあった。
呼吸は荒れ、体一面にできた擦り傷から出る血は止まることを知らない。そんなことどうでもよかった。命があるのだから。
従兄弟はすぐに見つけられるよう赤い服を着させていた。恥ずかしいといわれながらも、無理矢理着せてよかった。青果店の従業員であることを知らせる緑のエプロンは火が少しうつってしまったため焦げている。それでもこの誇りだけは、自分のプライドを保つ唯一の印だけはどうしても脱ぎ捨てることはできなかった。塵がまた舞う。僕は帽子を深く被り、必死に従兄弟の名前を呼び続けた。
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カテゴリー: お題
投稿日時: 2022/7/23 11:52
最終編集日時: 2022/7/23 11:53
てるる
ゆったりと自分のペースで更新頑張ります。
今iPadがバグっているので、作品が消えるかもしれません🙇♀️
一気に更新する時もあれば、一ヶ月以上止まっている時もあります!!
短編多め。更新止まっていたら大体テスト期間です。
みんなと仲良くできたら嬉しいです、気軽に声かけてください!
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