第十二幕:渇望

夜の闇がヴェリフラドの街を深く覆い、凍てつく風が石畳を這う。 彼は、屋根の上を跳び移りながら、その日最後の獲物を物色していた。 市庁舎の長官の記憶を貪り尽くし、旧貴族の老当主の深遠な思考を啜り、大学教授の知識を根こそぎ奪い、修道院の神父の敬虔な信仰を嘲るように喰らい、名のある詩人の紡いだ言葉の全てを飲み込んだ。 だが、それでも満たされない。舌の奥に残るあの少女の甘く狂った痺れが、彼の内側で脈打つ。 足りない。 もう、記憶だけでは駄目だ。彼は本能的に感じていた。 思考の表面を舐めるだけでは、この底なしの渇きは癒せない。
さきち
さきち
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