指きり

指きり
「どうでもいいの。嫌悪感も、抵抗感も、もう気にならない。だって私はどうでもいいんだもの。」 誤魔化すようにグラスに残った酒をあおって、彼女は曖昧に笑った。 「僕が君を大事に思ってるのも、どうでもいいのかい」 僕の問に、彼女は少し黙った後に言った。 「....それは、どうでもよくないけれど、貴方は本当に大事に思ってるのかしら。それを証明できる?もう私は、貴方であっても信じられないの」 僕は何も言えなくなった。悲しい恋として終わったものがトリガーだったとしても、それよりも前に、彼女を最初に裏切ったのは誰あろう僕だったのだから。 「愛って何かしらね。私には分からない。知りたいから、教えてくれる人を探してるの。教えてくれるならこの身体なんてどうでもいいのよ」 席を立とうとする彼女の手を掴む。思わぬことだったようで彼女はこちらを振り向く。その瞳には猜疑の色が浮かんでいた。 「....誰でもいいなら、僕でもいいんじゃないか。まだ君を愛してるよ。あれから今までずっと」 本当のことだ。僕には彼女が唯一の愛だった。それを彼女が信じるかは別だが、他の奴に取られるくらいなら、他の奴に彼女が傷付けられるくらいなら、僕は全部を捨ててもいいと思った。
白本竜也
白本竜也
短編を書いてます。 Twitterでは140字小説を主に色々と。 よろしくお願いいたします。 Twitter: @shiramoto_140