或る空間的なエクスタシーへの過程 最終話

或る空間的なエクスタシーへの過程 最終話
 「ドラマやって無いやん。ホームレスが爆破テロやって、あーこわ」  テレビを見ていた母親が、いかにも恐ろしいといった風に体を震わせる真似をしながら僕へと言った。しかしその声音は落胆の感情の方がよっぽど大きいようだった。  「暇んなったし、晩御飯作ろかな。何があったっけ。そうや、東さんにコロッケ貰ったんや。それでええな、夏人?」  僕は適当に返事を返した。母がこういう質問の仕方をするときは、大抵、母の中で結論が決定した後であり、その決定を覆すことはできないので、適当に流すしかないのだ。それに、僕の興味は、携帯の画面に映し出された或る動画に集中していた。  母が怖いと言ったこのニュースは、昨日の夜に爆破があってから、すっかり世間の注目の的だ。渋谷のハロウィンに参加していた人間の撮影した映像や画像がネット上に載せられ、テレビでも同じ映像が流れている。しかし、テレビが絶対に放送に取り上げない映像があった。ネットではその映像が議論の中心に据えられているのに対し、テレビではそれに触れることはない。テレビはホームレスによる爆破テロだと報じていたが、ネットではおよそ真逆とも言える推測がなされていた。ネットとテレビの対立構造が出来上がっているのだ。  その映像というのは、警官の身体が爆発する瞬間を捉えたもので、撮影していたのは豆腐の角なる配信者の男だった。男は、逃走するときに一応録画をまわしていたのだと言う。彼が当時配信していた生放送の、ホームレスたちとの掛け合いのシーンなどと合わせて、警官が爆破テロを画策していたのではないかとの推測が生まれた。現在の混乱に便乗して、小規模なものから大規模なのまで、様々なテロを呼びかける投稿も増えた。何かが大きく動こうとしている。  電話が掛かって来た。  「山口、一緒に警察襲わんか」  相手は野田だった。野田は幼い頃、警官だった父親の暴力で妹を亡くしていた。   「お前、オトンと警官を重ねてるんやろ。相手はお前と関係の無い人間やで」
山口夏人(やまぐちなつひと)
山口夏人(やまぐちなつひと)
好きな作品 「K君の昇天」梶井基次郎 「中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃」三島由紀夫 「狐媚記」澁澤龍彦 「阿修羅花伝」赤江瀑 「芽むしり仔撃ち」大江健三郎 「ぬばたまの」須永朝彦 「火星植物園」中井英夫 「半島を出よ」村上龍 「トビアス」山尾悠子 「獣の奏者」上橋菜穂子 「有頂天家族」森見登美彦 「宝石の国」市川春子 2005年6月11日生 ある文学賞に応募したけど、箸にも棒にもかからなかった作品を挙げてます。