月下美人

月下美人
 あなたに恋をしました。私にとってあなたは、どこかの絵描きが気まぐれに描いた絵日記のように儚く美しかったのを、今でも鮮明に覚えています。あなたを思った時の昇天するかのような幸福感は、私の世界をぐるりと一変させました。  風にそよぐ道の草花は踊るように、空で囀る小鳥が唄うように、通りすがる周りの人たちは皆んな私の引き立て役のようで、まるで自分が世の中の全ての中心にいる気分でした。  あなたのためなら、私は本当に何でも出来る気がしていた。私の全てを明け渡し、尽くして、捧げられた。  そう、あなたのためなら……。    桜の花が咲き始めた、春咲の頃。  あなたと初めてお会いした時の私は、実は当初から特別に思いを寄せていた訳ではありませんでした。それはあなたも同じだったと思います。  お互いに意識をすることも、気にかけることもなく、目を合わせることもなく、何かが始まるわけでもない。ただただ時だけが過ぎていきました。    蝉の求愛が盛んになっていた、夏のある日。
ペガサス
ペガサス
はじめまして! 将来ショートショート作家を目指して活動しています! ぜひ読んでいただきたいですし、皆様に面白い作品を届けたいので、至らぬところがあればいろいろ教えてください