あやかし
俺は元々、おかしなものが見える体質だった。小さい頃から、人ではないものが。それらは人に紛れていたり、全く違う姿をしていたりと様々だが、人に害なすものは少ない。まあだから特に困ったこともなかった。社会人になってから随分経った今でもそれは変わらず、大概のことでは驚かなくなっていた。
「うおっ....」
前言撤回。今回は驚いた。会社の同僚に連れられて行った居酒屋、その横の狭い路地から、くず餅のような半透明でふよふよとした大きなものがはみ出ていた。しかも丸いふたつの目がついている。その視線は、こちらに向けられていた。
「どうした?」
「いや....なんでもない」
じっとこちらを追ってくる目を無視して、店に入った。帰り際もそれは変わらずこちらを見ていた。
別日。仕事帰りに件の居酒屋の前を通ると、相変わらず巨大なくず餅が俺を見ていた。気まぐれに近付いて、訊く。
「なあ、お前、酒は飲めるか」
すると半透明の巨体がするすると小さくなり、着物姿の人型をとった。その顔は何故か俺の顔だが。
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カテゴリー: ファンタジー
投稿日時: 2021/9/26 6:03
白本竜也
短編を書いてます。
Twitterでは140字小説を主に色々と。
よろしくお願いいたします。
Twitter: @shiramoto_140