酒蔵の夜明け

酒蔵の夜明け
文句の一つも出ない。無意味に過ぎない文章を作る。『あ』と書いたら、その上からばってんを引いて文字を成形しなおす。意味のないことを重ねていって、いずれなんとなしに心地良いものができると信じている。文字なんて、煮るなり焼くなり好きにすれば良いが、それで不味いものが出来上がっては頂けない。 アール・ブリュットなんて言えるほど崇高なものでもない。言ってしまえばそれはガラクタの寄せ集めに過ぎないわけで、芸術ではない。頭ごなしに言葉を紡いだところで、人類数千年の歴史が独自性を否定する。ようするに、誰が同じことを言っていたのかわからない。それはもしかしたら、かの紫式部が源氏物語の推敲中に、文章の中から除外した一文かもしれない。漱石が猫につけるのを躊躇った名前かもしれない。韓非子が始皇帝を唆すのに使ったセリフかもしれない。完全に否定なんてできるわけがない。完全なんて完全にないわけで、完全を完全に否定できる以上、それはやっぱり完全なのかもしれないが、矛盾が生じる。 『あ』と書いて、これは違うと『い』に直して、『う』の方が良いけれど、形式的に『え』に変えておく。それが一番良かったりするが、周囲との調和を考えるとどこか気持ちが悪いから、苦肉の策で『お』にしておく。形式的に気持ち悪いものは数えるとキリがないほどある。二度目の一、五度目の三。二番煎じも甚だしいが、思い出るままに記していけば、いくらでもその類は現れる。それをどう扱うかは作家次第。川の流れに乗る桜の花弁か、腐った柿の実か。どうにも制御のしようがないから、四季の移ろいぐらいに考えるのが良い。 なけなしの布団に身を包んで、明くる朝まで脚を伸ばす。 作品は知らぬが名前を知っている、荒木田麗女という文人。 ざぶんと轟音を立てて墜落する、滝の音色に身体を遊ばせて。 月は綺麗ですねと綴った、あの先生は何処へ。 雨が降る夜空の月光。上田秋成の姿は脳裏にて霧中。
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面白い物を読ませてくれる人が好きです。 noteにもいます。 11.4 ~