熱帯夜

熱帯夜
ゴミ袋は悪臭を放っている。中には煙草の吸殻や白いカビが生えた鯖缶、真っ黒になった豚肉や干からびている野菜のヘタが入っている。そこを小さなハエたちがせっせと飛び回りながら、彼らの国を築いていた。 私はどうしたらいいか分からなかった。分別が済んでいないままのこのゴミ袋を捨てるほど、私は非常識な人間ではない。かといって、このハエの国に私の手を突っ込んで、中からゴミを分別するほどの勇気も持ち合わせていなかった。結局、虫は寒いところが苦手という知識を基に、ゴミ袋ごと冷凍庫の中に押し込んで、それで完了ということにした。これでハエも死に、匂いも冷却される。見えなければ存在しないのだ。 部屋の明かりを消して間接照明を点ける。オレンジ色の光はベッドの側面だけを照らし、床に落ちている細かなゴミは見えなくなった。 換気のために窓を開けたところで、玄関の扉が開く。リサだった。彼女はハンディファンの電源を切って靴箱の上に放り投げる。 「は?なんでエアコン点いてないの?」 汗で額に張り付いた前髪を直しながら、彼女は私をギョッと睨んだ。 「いや、今換気のために窓開けてるから」 私も少し汗をかいていることに気が付いた。 「掃除でもしたの?」 彼女は小さなバッグをソファに置き、持っていたビニール袋の中からアイスクリームの箱を取り出した。バニラとチョコの二種類の味が五本ずつ入っているバラエティパック。幼い頃、祖母の家でよく食べたものだ。
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