さよならを教えて Part2
塾から真っ直ぐ帰らなくなったのは、全国模試で満点を取った次の週からだ。
その日、模試の結果を持ち帰った私を褒めるお母さんは本当に嬉しそうだった。塾では先生にも褒められて、学校ではクラスメイトたちがこぞって私に勉強を教わりに来た。週末にお母さんが腕をふるったご馳走を食べながら、私は何だか簡単だなぁと思った。
今の成績を出せるようになるまで勉強するのは楽ではなかったし、それを維持するのには今まで以上の努力が要る。でも、それは結局、時間と根気の問題でしかない。
それなのに、皆これで私の人生は懸念無しだねみたいな顔をして、簡単に尊敬の眼差しを向けちゃったりして、生きるのってそんなものか、と思った。
塾が終わった後で無意味に街を徘徊しても、お母さんは何も言わない。自習室で勉強していると思っているのか、これくらいの息抜きは必要だと思っているのか。
私はお下げ髪に銀縁眼鏡の優等生で、冗談みたいだけど本当に学級委員長をやっていて、制服を着崩したことは無いし、条例にも校則にも違反したことは無い。だから、これを機に反骨精神でも発揮してやろうかと思った。
どうしたら不良になれるのかをインターネットで検索して、月のお小遣いで色々買った。そうして揃えた変身グッズを駅のコインロッカーに入れて、塾が終わってからトイレで着替えた。
髪を解いて、整髪料をつけて乱す。靴下は紺のハイソックスからピンクと黒の縞模様に履き替え、スカートを折り曲げる。お上品なリボンを外して短いチェック柄のネクタイに替えたら、古着屋で買ったガーディガンをだらしなく羽織る。もちろん化粧もする。
駅前の繁華街に繰り出して、意味も無くあちこちを歩き回った。
皆が尊敬した優等生は、もういない。
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2021/10/9 7:57
最終編集日時: 2021/10/9 11:49
いずさや
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