飼い猫
あの男は、今朝からずっと寝ている。
にゃあと鳴いても反応しない。ぐうと唸るわけもなく、ひたすらぷうぷう寝ている。
人の眠りは長いと聞く。身につけた知能は偶然の賜物だというのに、奴らはそれを理由に威張ってみせる。鳥の爪に掴まれたり、大猫に食い殺されてしまうとは思っていないのだ。
嗄れた声がないと、この巣穴はやけに静かだ。奴がぷかぷかとさせていた煙はないのだから、部屋だけはやたらと澄んでいる。面長の台の上、小箱の中にある細長いこいつを使う奴は、今や床の中である。
そうなってしまえば、この俺を止める愚か者はいない。
巣穴を練り歩いて飯を探す。奴は俺の飯を神の如く管理する。監査官のように俺を見守り、何か不便があれば俺の尻を引っぱたく。人間は暴力的で、自尊心の獣で、過保護な猿だ。それでいてやけに弱い。少しばかり妖艶に振る舞えば、打って変わって従順になる。高らかに鳴いてやれば飯を寄越す。
数刻後、部屋には猿共が集まっていた。揃いも揃って烏のように黒い。俺の毛を真似ているとも見て取れる。お淑やかに黙りを決め込んで、時折しくしくと声を上げて鳴く。道化師のペテン同然である。猫に対する冒涜であり、最大限の愚弄だ。あの愚かな男の、交友関係における管理能力の責任が求められる。
俺は耳を滾らせ、あの男の寝床に向かって走っていった。
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カテゴリー: SF
投稿日時: 2025/6/14 8:44
最終編集日時: 2025/6/14 8:49
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