無善悪
【矢隈亮平 ヤグマリョウヘイ】
四年前の九月二十日に、母親は死にました。ですがあの時も今も、悲しいとは思っていません。同情もしていません。昔から、母が嫌いでしたから。
自分の思い通りにならないとヒステリーを起こし、手を上げ暴言を吐く。「仕事で忙しい」と言って参観会や運動会、卒業式にも顔を出さない。ーーー母はそんな人でした。
「あなたのために働いてる」と言う割には、小遣いもくれず、欲しい物も買ってはくれませんでした。
ですが僕は、「寂しい」と感じたことはありません。母の対となるような、優しい父が居たからです。父だけが、僕を見てくれました。父が愛情を注いでくれればくれる程、僕は母を憎むようになりました。ーーー何故僕を見てくれないのか。何故僕を愛してくれないのか。気が付けば、僕は母を忌避するようになっていました。
僕が中学に上がると、母は深夜を回ってから帰宅することが多くなりました。父はそれを不倫だと決めつけ、毎日のように口論になっていました。
「おまえが男と歩いてるところを見た奴がいるんだ」
「同僚と仕事してただけよ。仕事だから仕方ないでしょ」
「毎日毎日残業なんておかしいだろ。男と遊んでるんだろ。さっさと認めろよ。亮平連れて出てくから」
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カテゴリー: ミステリー
投稿日時: 2025/6/28 3:07
最終編集日時: 2025/6/28 3:13
注意: この小説には性的または暴力的な表現が含まれています
井出元 悠来
いでもとゆうらです。よろしくお願いします。 プロフィール画像は、自作イラストをAI加工したものです。