月夜とくろねこ

月夜とくろねこ
家に帰ってたらまず一番に僕のベッドに視線をやって、そこで色々と開けっぴろげにしている黒猫の腹をわしゃわしゃするのがお約束なのだが、今日はそこに黒猫がいなかった。 「……あれ?」 慌ててキョロキョロと部屋の中を見渡すと、出窓に置いたカラーボックスの上に香箱座りをして外を眺める後ろ姿が目に入って、少し安心する。 黒猫はどこにでも潜り込んでしまって、しかも真っ黒なせいで何処にいるのか分かりにくいのだ。心臓に悪い。 外を眺めるその姿で、そういえば今日は満月だったな、と思い出した。 「ただいまー」 声を掛けたらはたりと長い尻尾が気怠げに返事をよこす。その横着さは一体誰に似たんだろうか。 ぽふぽふと尻を軽く叩くように撫でると、ようやくこちらを向いてふにゃ、と微かな声で鳴いた。 「どうだ? 月はよく見えてるか?」 「んにゃ」
行木しずく
行木しずく
薄暗い話と頭の悪い話を書きます。