泡沫のチューインガム

泡沫のチューインガム
いつものように道端に座っていると、1人の少年がぼんやりと歩いていた。前を見てるんだか下を見てるんだか分からない目は、ふと脇道に向けられた。なんだか騒々しい音がそちらからしていたので、僕もそちらを見てみた。 古びた駄菓子屋が、そこにあった。ああいう店は店主が年寄りと相場が決まっている。少年はリュックを前にやり、ガサガサやったあと駄菓子屋に歩き出したので、僕もついて行くことにした。 木造平屋で、紺色の暖簾をくぐった先には棚に並んだたくさんの駄菓子がある。そんな絵に描いたような駄菓子屋だった。レジには白に近い灰色の髪をまとめたおばあさんが座っていた。 おばあさんは僕を見て 「おやおや、可愛いお客さんだねぇ」 と言って笑い、少年にいらっしゃい、と微笑んだ。少年はぺこりと頭を下げ、店の中をゆっくりと見て回りはじめた。僕はおばあさんの元へ行き、小さな煮干と牛乳をもらった。年寄りの駄菓子屋の店主はやはり何かしらをくれるものだ。 少年はしばらく見て回ったあと、チューインガムと小さなチョコレート、それから缶ジュースを持ってレジにやってきた。おばあさんはレジを打ち、少年に値段を伝えて、少し世間話をしていた。少年はどうも無口なタイプらしく、僕が今まで見てきたような人間とは少し違っていた。なにかとオドオドしているのだ。おばあさんはそんな少年をニコニコと見ていた。しばらくすると少年は店を出たので、僕は家に向かった。 家に着いて周りを見ると、ベンチに少年が座っていた。少年は少し暗い空を見てぼんやりとしていた。僕は、少年の魂が抜けているのでは無いかと少し心配になったが、どうも少年の口にはチューインガムが入っているようだった。なるほど、夕暮れの公園のベンチでガムを噛んでいたらぼんやりするのも仕方ないのかもしれない。少年はしばらく口をモグモグさせて、銀色の紙にガムを吐き出した。そして、次のガムを取り出して口に放り込んだ。そのガムはちょうど今の空のような淡い藍色をしていた。少年は小さな声で 「泡沫味」 と、呟いた。そういう名前の味のガムなのか、少年がポエマーなのかは分からないが、少年の目は少し潤んでいた。やけに悲しそうなその目は、だんだん暗くなる藍色の空を映していた。僕はただ何となく、少年の傍に座った。少年は僕には目もくれず、ただガムを吐いては食べることを繰り返していた。
星影 累
星影 累
勢いと思いつきで書いてます。 文才とかないです。 小説家とかを目指してるわけじゃないのでクオリティは求めないでね…笑 アイコンは自分絵