開門

開門
友達が引っ越したらしい。 三限目の授業が終わって、そろそろ帰ろうとしていた時、友達に「俺ん家最近引っ越して、住所変わったんだよね〜」と話し掛けられた。引越し先は私たちが通う同志社大学からほど近い所にある十二階建ての大きなマンションだった。友達が家族のために不動産屋と入念に話し合いをして物件を決めたらしい。渡されたチラシには、「フルリノベーション済み」という文字が大きく書かれていた。あとは近くのコンビニまでの距離とかそんなものしか書かれていなくて、肝心の部屋の中の写真が一枚もなかった。 「俺、このあとサークルが終わってから、初めてこの家を見に行くんだけど、お前も来る?」 「初めて」と彼は言った。 物件を決める際に内見には行かなかったのだろうか。 友達は前々から京都市の物件情報を調べていて、「家族のために良い物件を探している」と言っていたから、私は少し不審に思った。 「じゃあ行こうかな」 「でもサークルが終わるまで時間があるから、はいこれ。」 友達はおもむろに封筒を渡してきた。 「その中に新しい家の鍵が入ってるから、先に入って待っててよ。」
渡利
渡利