裸足でペダルを踏む女 (改)

 私の姉は車を運転する時、裸足になる。ドアを開き、運転席に腰を下ろすと、まるで儀式の所作の一つのようにかかとの高いエナメルのヒール靴を恭しく脱ぐ。真っ赤なハイヒールを助手席の足元にそろえて置き、ストッキングで覆われた足をブレーキペダルにのせる。 同乗者は私しかいないのに、運転席の後ろに乗ってと言われた。助手席には、自分の靴と自分のバッグを置かないと気が済まないらしい。姉がエンジンボタンを押し、ストッキングの足でアクセルペダルを踏み込んで、ゆっくりと車は発進した。 思えば、幼い頃から姉は少し変わっていた。本棚を見ると、一巻から順番にきちんと並んでいないと気に食わないし、途中の巻が抜けたコミックスがあった時には試験勉強そっちのけで家中探し回った。 かと思いきや、自分の机の周りは終わった宿題のプリントや教科書が無造作に積まれていたり、タンスの周りには洗濯し終わったのかどうか分からない服が山のように置かれていた。 そんなどこか小さなこだわりの癖がある姉。 学生時代は、周りはアイドルでキャーキャー言っている中、姉は誰も知らないピン芸人を推していた。数少ないネタ動画を観させられ、ほらハゲ貴族っていうの名前からして面白いでしょと一人にまにまと笑う姉を横で見た時、私は好きな人が被らないだろうなとなんとなく思った。  その姉の推していたハゲ貴族は、その頃たまにネタ番組に出ては、スタジオの静寂と司会者の苦笑いとフォローを引き出していた。そして、ハゲ貴族は今やこのハラスメント社会に淘汰され、一発も跳ねることなくいつの間にか見なくなった。今は何をしているのだろうか。話題にすら上がらない。 「ねぇ、寒くない?」バックミラー越しに、ハンドルを握りながらこちらを見る姉と目が合う。ううん、大丈夫。と四方向の窓から吹いてくる風に負けじと声を張った。
はるきち
はるきち
いいねやコメント失礼しますm(_ _)m 心身健康な時だと出来るのですが、最近読める時と読めない時の差が激しくて…_(:3 」∠)_ こんなやつですが、よろしくお願いいたします