白い啖呵の際

白い啖呵の際
あの担架が落ちたとき、僕は覚悟したんですーー。 くすくすと笑い掛ける、僕の血の繋がらない姪でした。そこそこ名の知れた建築家が、晩年に残したやり掛け。ピロティから続く、中央の螺旋階段から、彼女が見えてしまいます。担架は、音を立てずに降り注ぐんです。 姪は、真部まゆみでした。 能書き垂れて、うろうろと。伸ばした爪の切り方すら、覚えきれぬままに。飯を食いながら、ふと布団剥げば、いい歳となって。丁寧に言葉包み込めるほど、奉公に出た年数も短く。僕という奴は、頭がよろしくないまま、和歌山の串本まで辿り着いてしまって。そこで、僕と同じ家紋を与えられた少女はーー。 少女は、僕の姪と言いました。それを告げられたのは、串本にある樫野崎灯台。純然たる白い宇津木石で建てられた、最初の洋式灯台。まるで大正が浮かぶように、それは陽射しを受け止めて。淡い色のワンピースを着た少女が、麦わら帽子を振り回しているような、錯覚。瞼の奥が深く感ぜられ、下を這う海は、薄く膜を張っていました。白い、啖呵の波打ち様。僕は、母の顔すら見覚えがないままに。 自然と、口から溢れました。許して欲しいと、僕はやはり頭が緩くなる大人であって。実際は、少女は制服でもワンピースでもなく。野暮ったい、男物のコートを羽織っておりました。間違いは、誰にでもあります。でも、少女は確かに真部まゆみであったんです。僕は、がたがたと歯形震わせて、恐れをなしました。
西崎 静
西崎 静
コツコツ書いていきたいと思っております。よろしくお願いします!成済