第四章 ~古の魔人~ 10

第四章 ~古の魔人~ 10
 アレイスの活動拠点となった廃ホテルの一室。負傷したメンバーの手当をしていたのは、ステラだった。手当を受けるセルフィーは、その手際の良さに一人驚いていた。これまでも負傷したメンバーの手当は彼女が請け負ってきたらしい。射撃の腕の良さといい、治療の腕の良さといい、どうやらステラはかなり器用な人間のようである。 「さ、これで終わりよ。しばらくは安静にしておいてもらわないといけないけど、あんたにはラグナやリィーガーの整備もしてもらわないといけないからね。せめて二人が帰ってくるまでは部屋で休んでいるのよ」  幸いなことにセルフィーが受けた傷は、他のメンバーと比べると比較的軽いものだった。全身に複数箇所の打撲を負い、亀裂に捕らわれた足の傷は縫合が必要だったが、骨折のように長期間活動が制限されるような傷はなかったようだ。それよりも体力的な疲弊の方が激しく、体は十分な療養を求めていた。 「はい。どうもありがとうございました。あの……ステラさんこそ、無理はしないで下さいね」  気遣いを見せるセルフィーの言葉を聞いて、ステラはキョトンとした表情を浮かべる。呆けたようなその顔は、これまで見せ続けていた険しい表情からは想像出来ないもので、笑みこそ浮かべないものの、常に氷山の一角のように尖っていた目尻が僅かばかりに緩んだような気がした。 「まさか、あんたに心配されるなんて思ってもみなかったわ。人のことはいいから、早く部屋に帰りなさい」 「は……はい。すみません。それじゃあ、失礼します」  口調こそ今までどおり尖っているものの、ステラが見せるこれまでとの表情の違い、そして久しく向けられることがなかった親しみが滲む言葉に僅かに胸を弾ませながらセルフィーは立ち上がる。と同時に、ゴンゴンと不躾に部屋の扉をノックする音が響いた。 「ステラ、私だ」  扉の向こう側から聞こえたのは、聞き馴染みのある嗄れた低い声。デュオルが封鎖地区を去り、ラグナとリィーガーがフリーデ号内で見張りを行っている今、拠点にいる人物は残り一人しかいない。
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