心のひきこもり
上田裕也はキッチンの蛇口を捻って水道水を一気に飲み干すと、袖で顔を拭ってまた部屋に戻った。カレンダーは五ヶ月前のままぶら下がっている。月日は知らぬ間に流れていた。 同級生ももう、自分のことなど忘れているだろう。裕也はそう思いながらため息をついた。親も自分なんか見捨ててどこかに行ってしまったらよかったのに、俺を一人にはしてくれなかった。母親は日課のように俺の部屋の前に飯を置いていった。
いっそ誰かから忌み嫌われ、殺されるような人生ならば、どんなに楽だったことだろう。最近はそんなことを考える。死ぬ勇気なんてものはない。でも優しさにすがって生きている資格もないのだ。そんな感覚の狭間を無条件に彷徨っていると、何かをする気力も起きず、かといって何もしないのも酷く苦しい。雄介からのメールも、一週間は無視している。イヤホンを耳に押し込み、音量を一気に上げる。机の上には、CDが無造作に積まれている。
漫画でも買ってきてもらおう。五時半までのパートの母ももう戻るはずだ。母親にそうメールするも、今日は遅くなるから自分で行きなさい、と正論を投げ返されただけだった。
黒い雲が空を覆い、今にも雨が降り出しそうな生暖かい風が、耳元に溜まる。六時といってももう薄暗い。
こんな日に久しぶりに外に出るなんて、愚行だったと思いつつ、引き返せなくなった俺は、錆びついたビニール傘を片手に玄関を出た。
近くのコンビニまでは十五分。決して遠くはない。しかし、誰にも会いたくない俺にとって、家の外はアマゾンの奥地とさほど変わらなかった。いつどこから、毒蛇が現れるのかわからない。
中学の前を通ったあたりで、大粒の雨が地面に叩きつけられた。かなりの土砂降りだ。錆びついた傘には小さな穴がいくつも空いていて、使い物にはならなかった。スエットのフードを被って、道を駆けた。久しぶりに走ったが、陸上部の頃の感覚は案外残っている。
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2024/10/17 9:36
最終編集日時: 2024/10/17 9:36
K.l
大学一年です