人生の演劇

人生の演劇
きみは音の無い世界に足を踏み入れたことはあるだろうか。そこには無音の空間が広がっている。そして耳の聞こえる人間は、聞こえない人間になるまで絶対にその世界へ足を踏み入れることは出来ない。何故ならば、私たちは無音という音ですら聞いているのだから。何も音が鳴っていないとき、“シーン”と表現するのをご存知だろう。これは無音の時、耳の音を聞いているのだ。自分で音を作り出す人間とはやはり恐ろしいものだ。 さて、無音の話はここまでにして、今日は僕の両親について聞いてもらうことにしよう。僕の家族との生き方について。 僕の家族は両親と僕と弟の4人。僕は高校生で、まさに受験真っ只中である。そして両親は毒親と言えるほどのものでは無いが、少し頭の固い人間だ。 母は専業主婦。社会の厳しさや常識は母が教えてくれた。いつも迷惑を掛けているのに、最終的には色々と遠回しに心配してくれている。母は不平不満をつらつらと述べる割に、僕の意見を全く聞かない理不尽さを兼ね備え、何かあれば手を上げたりお玉や菜箸、時に教科書で頭を叩く。あまりに酷いと言い返せば例のディベーターの如く10倍になって返ってくる。 父は毎日夜遅くまで職場で働き、他人の分まで働くのに自分の成果にならないという可哀想な人だ。これは僕の意見だが、父はきっと職場で誰よりも有能な人間だろう。そんな父もやはりストレスは溜まるようで、職場でのストレス、母からの不平不満を聞いて解決させなければならないストレス、親戚の墓問題に巻き込まれるストレスなど、種類は様々だ。そんな父は僕や弟を絶対服従させられる唯一の存在たちだと見ている為、大声で怒鳴りつけ、自分の考えこそが正しい、それ以外は偽だと決めつけている。 生き抜くのは厳しい。僕だって家族という狭い世界ですら苦労をしている。両親もそれぞれ生き方や考え方、性格はそれぞれだ。それでも2人は愛し合って、結婚にまで至った。人生は何が起こるのか全くわかったものでは無い。 僕は友人にとって面白い、優しい心の持ち主で、友達でいたいと思える人間を演じ、両親にとってストレスを与えない理想の子供、そしてストレスの掃き溜めとなる存在を演じる。人生とはそんなものだ。世界の音を意識的に消して塞ぎ込むのではなく、ただ演じ続け、理想の自分で居ること。それこそが大事なのだ。
維千 / ichi
維千 / ichi
お時間のある時に貴方を1000字の世界へ。 ご高覧いただきありがとうございます。 【人狼ゲーム】11月14日より連載中