逃避行11

逃避行11
「腹たったか。」  僕はなおも辻を睨んだ。 「おれはあくまでも客観的な意見を言うたんや。お前ら兄妹に対しての私情は挟んどらん」  辻は判然と言った。  その言葉は一見辛辣そうに聞こえた。だが、それは確かな現実だった。  ぼくは辻の真っ直ぐな視線から逃げて、項垂れた。  確かにそうだ。僕は逃げれたらなんでもいいと思っていた。その後の暮らしのことは何も考えてなどいなかった。いや、考えてはいた。いたのだが、甘すぎた。適当な田舎のアパートを借り、仕事をして、ご飯を食べて、寝る。そして、また仕事に出る。僕は妹の側にいることだけを考えすぎて、妹の幸せを蔑ろにしていた。この子の学校生活は僕の開けたくない引き出しの奥にしまってあって、心地温風だけが息吹く、戯言の世界をずっと想像していた。あの地獄から脱出際できればなんの支障もなく、慎ましく2人で暮らしていけるとどこがで思っていたのだ。 「甘すぎるで」  と辻が呟いた。  それはまるで僕の思念を読み取っているかのような言葉だった。
ばぶちゃん
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基本連載 時々短編 文章虚偽祭り ナポリ湾 少なめ健三郎 自然薯