短かくて大きな息抜き

 家では勉強。学校でも勉強。それ以外は習い事。息の詰まるような毎日だ。  なまじ要領が良かったせいで私は親に限界だと言い出すこともできず、デイリーノルマを達成するかの様に時間を浪費し続けている。  今日もいつも通り学校帰りにピアノ教室へと向かっているところだった。  道の端っこに見慣れない穴を見つけたのだ。普段なら気にしない様な小さな穴だったというのに妙に気になった。  時間を確認すると少しだけ余裕があったから思わず覗き込んでみた。母さんに見られたらはしたないと叱られるだろうな、と思うと少し可笑しかった。  私は少しのぞいて満足するはずだった。変わり映えしない日々なのだ。ほんの小さな変化でも私は大歓迎だ。  しかし今日のそれは小さな変化ではなかった。覗き込んだ途端、私は突然頭から真っ逆さまに落っこちる様な感覚がした。  手足を思いっきりバタつかせてもそれは止まらず、視界は真っ暗で何も言えない。  私の脳内が混乱から恐怖に変わる前にそれは訪れる。  突然の光と共に私は空中へと投げ出された。眼前には小さくなった街並みが一杯に広がり、しかし先程までの落下は止まっていた。
たなたか
ゆったり