目撃者の目撃者

目撃者の目撃者
 俺はアイツに憎しみを抱いていた。  だから、たった今見た光景をアイツを陥れる為に使ってやろう、と咄嗟にひらめいた。我ながらいいアイデアだと思った。  「アイツ」とは同じ会社に勤めていて、出会いは十三年前だった。大学に入って最初にできた友だちで、卒業してからも仲良くしてたのだが、 「お金貸してくんね?」 去年の秋、そう言われた。貸せない額でもなかったので、「返せよ」と軽く念を押して貸した。それが良くなかったのだ。  一ヶ月も経たないうちに倍以上の額を要求された。それが今までに数回続いたある日、俺の数十万円が一銭も返されていないことを追及すると、「当たればまとめて返せるから」と彼は言った。  俺の“貢ぎ”が彼のギャンブルに吸い込まれていたことを知ったのはこれがきっかけだった。憎しみが芽を出したのもこれがきっかけだった。  彼のことを「アイツ」と呼び始めて三週間程経った、今日の昼下がりの外は気持ちがいいくらいに晴れていた。