和梨論

梨のように潤っていて、ひとしきりに噛めば、それなりの甘さと雑味を持ち合わせている。 あえて断言するとしたら、記憶という物は梨に近しい。 “メモライズ”の遍歴は、いつだって己に付きまとう。ただ背中を回して、暗い後ろを見れば良い。記憶は温かく柔らかい、いわば行灯のように点々と存在している。 明かりを見つければ自然と目を向けるのが人間の性分であって、抗う術を僕は知らない。「あの時を思い出してはいけない」と思考を繰り広げれば、薄ぼんやりとしたカンバス上に、くっきりとしたシーンが浮かび上がってくる。厄介極まりない性質を、一種の麻薬的なアドバンテイジに相反するように抱えている。 それでも僕らが回想を辞めないのは、享受できる恩恵の大きさにある。激動の世界を生きるにあたり、回想というのは捌け口だ。
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