私が生まれた瞬間:前編

何故私は作曲するのだ?私の内にあるものは外へ向かって出なければいけない。だから私は作曲するのだ。 -ベートーヴェン- 私が小説らしきものを書いたのは、中学三年生の秋頃だった。十年近い歳月を継母に虐げられ、その憤懣が計三回にわたる家出という形で表面化した。三回目の家出から戻ってきた時、私はもはやこれまでのような生活は懲り懲りだと覚悟を決めた。これからは継母に徹底的に逆らおうと決意したのである。 継母はもはやこれまでのように私を支配できないと匙を投げた。弟を連れて家を出て行き、私は父と二人暮らしをすることになった。後ろめたさがないと言えば嘘になる。父に一度だけ責められたことがある。その時、自分のやった事の重大さを認識せざるを得なかった。 だが、後悔はしていなかった。私と継母の関係はもはや修復できないほどにこじれていた。これまでのように、彼女が懲らしめのために実家へ帰ってその度に父が呼び戻しに行くという悪循環を繰り返してほしくはなかった。 結局翌年二人は正式に離婚した。血を流さなければ、自由というものは得られないことをこの時実感した。それまでの過程で、私は一編の小説を著した。家族がバラバラになりかけながらも修復していくという内容で、あるいは自らの手で分解してしまった家族への懺悔が多少なりとも込められていたのかもしれない。
江戸嚴求(ごんぐ)
江戸嚴求(ごんぐ)
ノベルアップ+でエッセイなど発表している、五十路の雑文家です。江戸厳愚から江戸嚴求と改名しました。