オレンジサイダー
九月中旬、夕方四時。黒髪の少年が、人気の少ない電車内で、窓の外を見ながら揺られていた。少年の目には生気がなく、着ているパーカーもだらしなくずり落ちている。
「次は、海豚波止場前、海豚波止場前、砂原方面へは、こちらでお乗り換えです」
無機質なアナウンスが響く。少年は変わらず外を見つめている。ふと、何かに反応するように、小さく呟いた。
「あ……海」
彼の目には、オレンジ色に染まる海が見えた。それに惹かれるように、彼は電車を降りる準備を始めた。
「海豚波止場前、海豚波止場前、お出口は、右側です」
少年は足早に電車を降りると、躊躇うことなく駅の外へ出た。
潮風が吹く。少し肌寒く感じるような風だが、少年はなんとも思っていない。「全部、サイダーならいいのになぁ」
そんなことを呟き、靴も脱がずに、海へと足を踏み入れる。すぐ近くにあった遊泳禁止の看板は、見なかったふりをして。
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2023/3/23 8:35
注意: この小説には性的または暴力的な表現が含まれています
AIS
不定期投稿者です。単発系が多いと思います。