罪

罪
 恋とは、運命という切り裂き魔に背負わされた罪である。心臓を射抜かれ、頭の中まで掻き乱される羞恥。また、自己嫌悪という罰を負い人生を歩夢ことになる。純粋な彼女を愛してしまった自分を憎み、殺したくなる。そして手を出そうとしていることにも呆れ、水気を孕んだ希死念慮が北風のように吹きつけてくるのだ。  私は女に嫉妬した。万国に通ずる紳士の礼儀である「レディー・ファースト」を貫き通してきた以前の私ではあり得ないことだ。なんという悲劇だろうか? その嫉妬は軈て、跡形もなく溶けてしまって、水滴となり、それは後悔の湖へと還ってゆく。彼女のすべてに支配される哀れな脳は恋をしたという一つの事象に突き動かされている。彼女に好かれる為には彼女にとって都合の良い、金のある、頼りのある人にならなければならない。その為には当然、紳士の心得に礼儀作法を身につける必要がある。そしてありったけの金を用意してディナーに連れて行かなければならない。彼女に尽くしたい。その一心だ。 私は獣のような性格をしているので、愛し合いたくなる(性交)でも、汚したくない。神聖なままでいて欲しい、そして幸せになって欲しいという蒸留された美しい願望が、あまりにも眩しくそこに立っているのだ。その閃光に眼を灼かれつつ、彼女の白い裸体を想像しながら漲る。あまりの興奮に血管が浮き出て、また、体の芯から熱が籠る。その情を遮る願望、幸せという字に立ち止まり、苦しみ、嘆く。  私が彼女にとっての一位でなければ。  彼女からして私は視界にいないのでは。  私を憐んで接してくれているだけなのでは。  考えるだけで嫌になるし、周囲の人間皆死ねよと心の底から願う羽目になる。こうなったのも全て運命のせいだ、そう言い聞かせて、私は今日も運命に冤罪を背負わさせる。もしあの場所で、彼女と出会ってなければ双方幸せになれたのだろうか。もしあの場所で星の話をしていなければ、私は夜空を見るたびに胸を熱くしなくて済んだのではないか? 毎日、毎晩そう思う。数ある光の中で一番輝いて、一瞬だけでも彼女の中に星として残ることが出来るなら、今ここで死んでも構わない。その為なら麻酔なしで胸を開いてやろう。そのような覚悟を決めて、常に立つ。  もしも祇園で会えたら、そこで練り菓子でも食べて茶を飲みたい。
愛染明王
愛染明王
麒麟曰く「我草花を踏まず。獣虫を殺さず。世が平安なる時、街へ降り人の前に立つ」