春日の琥珀色

春の暖かい陽気に誘われて、僕は昼を少しすぎた平日の街を足の向くままに歩いていた。ただ平日というだけなのに、何だか新鮮で、いつも見ているはずの風景もどこか違って見えた。   いつの間にか、僕は知らない路地に迷い込んでいた。立ち止まって辺りを見渡すと、ひっそりと建物と建物に挟まるように佇む古びた扉を見つけた。何となく惹かれて近づいてみると、どうやら書房のようだ。僕は磁石に引かれるように扉に手をかけていた。  真っ先に目に入ったのは、四方の壁を埋め尽くす本の数々。古い紙とインクの匂いが鼻腔を撫でる。本棚は天井に届きそうなほど高く、中央の天窓からは春の麗らかな日差しがそれらを照らしていた。 「いらっしゃいませ」 正面からの声に、慌てて目線を下げる。カウンターにいたのは、琥珀色の眼鏡をかけた穏やかな風貌の青年だった。 眼鏡の奥の瞳が、深く、優しく細められる。 「どうぞ、お好きにご覧になってください。何かあれば、僕はここにいますので、いつでも聞いてくださいね」 「あ、ありがとうございます」 短く答えた自分の声が、案外震えていることに気づいて狼狽える。青年はすでに手元の本に視線を落としていたが、ページの端を弄る指先、わずかに傾ける首の角度、先ほど向けられた優しい物腰――その一つ一つが、僕の知っている「誰か」を連想させた。いつどこで見て、それが誰なのか。霧の向こう側を透かすように、どうしても思い出せない。僕はあえて彼から目を逸らし、棚に並んだ本の背表紙を撫でるように眺めていく。けれど、意識の半分はカウンターの向こう側に置き去りにしたままで、題名など頭に入ってこなかった。時折、彼がページをめくる「パラ」という音が宙に浮いて、それも書架の奥深くへと吸い込まれるように消えていく。その消えゆく音に誘われるように、僕の心もまた、深い静寂のどこかに捕らわれてしまったようだった。
でぃぐだぁ
でぃぐだぁ
気が向いた時にのんびりとやっていきます