タクシー

タクシー
 「お願いします」  駅のロータリーで、何の前触れもなく扉を開けたのはきっと大学生ほどの年齢の青年。日を跨いだ直後、きっと夜まで遊びすぎて終電を逃したのだろう。五人目にして、今日の勤務最後のお客様だ。  「はい。どちらへ?」  「さぁ?とりあえずここから真っ直ぐ行ってください」  「さぁ…?」  あまりの猛烈な一言にとてもじゃないが困惑は隠せたものじゃない。地名ではなく、真っ直ぐだ。方角でもなく、真っ直ぐだ。  「では、ここから北東の方角へ向かいますね」  咳払いを挟み、この車の向いている方角、北東へと車を進めた。  「こんな遅い時間でもタクシーってやってるんですね」  「終電を逃した方々がご利用されますからね」
宮浦 透 Miyaura Toru
宮浦 透 Miyaura Toru
みやうらとおるです。小説書いてます。興味を持ってくれた方はアルファポリスや公式LINEにて他の作品も見れます。